全盛期2


8〜11巻





「ブリブリ王国」のパンフレットに、「現在8巻間で出ている原作のコミックスは2000万部を突破」とあり、「雲黒斎」のパンフレットに、「現在までに11巻発行されている原作コミックスはすでに2700万部を突破」とあります。そして、去年(2004年)の38巻までの発行部数は大体4200万部から4500万部ほどといわれています。単純に考えれば、1冊あたりの平均発行部数は、ブリブリ王国の時は250万部、雲黒斎の時は約245万部、そして現在は約110万部から約118万部と、半分以下になっています。

ただし、これは現在人気がなくなったというよりは、当時の人気が非常に大きかったと見れます。正にクレヨンしんちゃんの全盛期であったわけです。そして、前回に引き続き、その全盛期の後半に当たる頃のクレしんについてです。

この全盛期を迎えると、原作者の臼井氏にも一種の余裕のようなものが生まれてきたと思われます。その一つが「春日部」という表記についてです。クレしんの舞台は、言うまでもなく埼玉県春日部市ですが、もともと春日部だということは強調されていませんでした。

単行本の1巻には、しんちゃんとみさえが電車に乗る話が出てきますが、この時二人が電車に乗ったときの駅は単に「○○駅」となっています。1巻では、台風が来るという話の中に、みさえの台詞の中にある、「ウチ(埼玉方面)」という言葉が出来ますが、これにより読者は初めて、作品の舞台が埼玉県だと分かるわけです。しかし、春日部についてはまだ言及されておらず、この時点では、まだ埼玉県のどこかまでは分からないわけです。

4巻ではひろしの車のナンバーに「大宮」と表記されていることから、大宮市(当時)周辺かと思われます(ちなみに車のナンバープレートに、「へ」の表記は無い!)。

春日部について初めて言及されるのは、5巻のしんちゃんの夢の中でです。「むかしむかし埼玉県春日部市」とありますが、本当に春日部市が舞台かは(9分9厘そうだと言えても)まだ確実ではないといえます。しかし、同じく5巻に「きたかすかべスケート場」が登場することから、クレしんの舞台は春日部市だということが、ほぼ確実にいえるわけです。

この5巻が発行されたのは、ちょうど全盛期を迎えている頃であって、この頃からクレしんの舞台が春日部市であることが強調されだしていくわけです。例を挙げてみますと、シークレットサインでおなじみの本屋さんの店名は、5巻までは「BOOKS」なのに対し、6巻から(具体的には「ハイグレ魔王」から)は「かすかべ書店」となっています。また、野原家やアクション幼稚園の最寄り駅だと言える駅名は、5巻までは「○○駅」なのが、7巻からは「かすがべ駅(なぜか濁音)」になっています。

このように、全盛期に起こっている名前の変更は、春日部を強調するためだと言っていいのです。他に登場した春日部という名の施設等の名称は、「北かすかべアスレチック公園(7巻)」、「かすかべの森 美術館(8巻)」、「かすかべ森林公園(9巻)」等があり、11巻になると、「かすかべ防衛隊」が結成されるにまでいたるわけです(ちなみに「かすかべ防衛隊」という名称は、8巻の中で既に登場しています)。

これらから、作品の舞台が春日部であることを強調するという、原作者の意図が分かります。

クレしんが全盛期を迎え、爆発的な人気を博した背景には、やはりテレビアニメの影響が大きいといえます。確立期の中で、テレビアニメの影響を原作マンガが受けたと書きましたが、それは、作風という側面にとどまらず、テレビアニメが原作を引っ張るような現象も起こり出したのです。

それが、おケイ(本田(旧姓は最上川)ケイ子)の結婚です。3巻に独身として初登場し、6巻には「あたし当分独身でいいや」という台詞から、この時点でもまだ独身であることがわかりますが、7巻になると結婚しており、新婚生活を送っているという設定になっています。しかし、原作にはおケイが結婚する話は出て来ません。

実は、テレビアニメではおケイの結婚する話はその準備の話も含めて登場しているのです(結婚衣裳を見に行くゾ(1993年6月21日放送)、結婚式に出席するゾ(1993年6月28日放送)等)。つまり、テレビアニメのほうで、おケイが結婚するというオリジナルの話を放送し、後から原作者がそのように設定を変更した、つまり原作者がテレビアニメのスタッフの決定したと思われる設定に従うという、本来とは逆の現象が起こっているのです。

もし、原作者がおケイを結婚させると決めていたならば、当然その話は原作漫画に発表され、単行本にも収録されます(このような、キャラクターの大きな設定変更の話が、単行本に収録されないのは考えられないことです)。

ちなみに、後に野原家に生まれた二人目の子供(ひまわり)の名前を決まる話も、テレビアニメのみで、原作にはありません。ただし、「ひまわり」という名前は一般公募の中、原作者が決めたようですから、おケイの結婚話とは、性質が異なります。

いずれにせよ、両者共に原作漫画だけではクレしんを本当を楽しむのに、不十分といえる事態が生じていることを表しているといえます。

他にも、テレビアニメを意識した原作者の臼井氏の余裕のようなものが、全盛期の頃から所々に現れています。それが、テレビアニメのスタッフの名前を拝借するようになっていることです。

それは8巻のスーパーもとひら、ヤジマストア(みさえの持っているビニール袋に注目)、本郷寺みづる、9巻のやじま接骨院、ならはしみき(声優さんではなく、6歳の迷子です。念のため)、10巻のもとひら了子写真集、やじま動物病院などです。こういう遊び心からも、原作者がテレビアニメをいかに意識していたかが垣間見れます。

さて、この全盛期の後半に当たる頃から、ある傾向が表われ始めてきています。クレヨンしんちゃんは言うまでもなく、日常を舞台とした読みきり漫画ですが、この辺りから、一種のストーリー漫画めいた兆候が表われてきているのです。

いくつか例を挙げると、みさえの自動車免許取得、おケイの妊娠と出産、ひろしの単身赴任等が挙げられます。これらは一つの話の中に収めきれず、いくつもの話で展開するわけですが、このような話が全盛期の後半頃に増加傾向にあります。そして、それ以降のクレヨンしんちゃんは、大きな曲がり角を迎えることとなったと言って良いでしょう。



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